就職難が叫ばれる昨今においても、介護職の需要は増加の一途をたどっています。いわば人手不足の状態にあり、2025年には約37万人、2035年には約79万人もの人手が不足する見込みです。少子高齢社会の介護職の人員を増やすため、外国人技能実習生など海外からの人材確保による対策が進んでいます。
しかし、言語も文化も違う外国人を技能実習生として受け入れるためには、いくつかの条件をクリアすることも必要です。今回は、外国人技能実習生受け入れの条件や、受け入れ企業側の条件について紹介します。
介護職における外国人の技能実習制度とは
技能実習制度の目的
発展途上国から技能実習生を受け入れて日本の現場で実際に介護職にあたらせ、技術力を磨かせるのが技能実習制度の目的です。途上国においては、介護の技術力が追いついていないのが現状。しかし人材は多いので、日本で技術を学ばせて母国に技術を持ち帰らせるのです。
技能実習制度は1993年に創られ、2020年6月の段階では40万人が日本に在留し、技術を磨いています。今後も介護職の人手不足を見越して、さらに増えていくと予想されます。
技能実習生を受け入れる方法
実習生を受け入れる方法は、二つあります。一つは企業単独型、そしてもう一つが団体管理型です。
企業単独型は、海外に拠点を持つ企業が現地の職員を受け入れて行うもの。団体管理型は、非営利の管理団体を通じて技能実習生を受け入れる方法です。
ただ、介護事業において企業単独型というのが当てはまるケースは少ないのが現状。そのため、基本的に団体管理型によって人員を確保しています。
技能実習の区分・在留資格
技能実習生は、国内での経験年数などによって区分があります。
- 入国1年目:技能実習1号
- 入国2〜3年目:技能実習2号
- 入国4〜5年目:技能実習3号
それぞれ年数が増え、号数を上げるためには条件があります。1号から2号への移行の際には実技試験と学科試験をクリアすることが必要です。2号から3号に移行するためには、さらに受け入れ企業や管理団体の課す条件をクリアしなければなりません。
本来、技能実習制度の期間は5年間ですが、技能実習2号や3号を修了したのち、特定技能1号に移行することも可能です。この技能は5年間あるため、条件を満たせば、技能実習生は最長10年の在留が可能となります。
また、技能実習生であっても職員として扱われるため、実習中は最低賃金以上の給与の支払わなければなりません。
入国から帰国までのプロセス
技能実習生が実習を終えて帰国をするためには、各ステップごとに試験を合格する必要があります。1〜2号の間と2〜3号の間だけではなく、3号終了時にも技能試験があり、計3回の試験合格が条件です。
また、3号の試験修了前、または技能実習生としての開始後1年以内であれば、一時帰国もできます。ただ、それ以外は原則として日本に在留し、介護職の技能実習を続けることが必要です。
外国人技能実習生の受け入れ条件
外国人技能実習生は、誰でもなれるわけではありません。入国をして実習生として活動するためには、以下の条件を満たす必要があります。
日本語能力
日本で働くには、当然のことながら一定水準以上の日本語の能力が必要です。
日本語のレベルに関しては、N3やN4という形で段階分けされています。
日本語のレベルごとに分けられているのが特徴です。
- N3:日常的に使われる日本語をある程度理解できる
- N4:基本的な日本語を理解できる
技能実習生1号になるためには、N4の条件をクリアしなければなりません。また技能実習生2号になるためには、N3の条件をクリアすることが必要です。
また、J.TEST実用日本語検定や日本語NAT-TESTなどの日本語能力試験もひとつの評価基準です。これらの検定や試験でN3やN4と同等の技能が認められている場合も、技能実習生になることが可能です。
前職と入国前講習
技能実習生になるためには、前職や入国前講習の規定もあり、こちらも重要です。
前職が技能実習生として認められるケースは、以下のようなものがあります。
- 外国政府によって介護士と認められた者
- 外国で看護過程を修了、または看護師資格を持つ者
- 外国の高齢者・障害者施設で日常生活の世話など介護業務の経験を持つ者
基本的に介護経験や資格を持つ者は、そのスキルを活かせる可能性が高いので、技能実習生として認められます。
ただ、日本でいうところの介護などの職種がない国もあります。そのような場合には、2か月以上かつ320時間の訓練を受けており、かつそのうち1か月以上160時間が介護訓練であれば、技能実習生の基準を満たします。
母国の病院や施設で証明書を発行してもらうことができれば、この基準を満たすことが認められるのです。
入国後講習
技能実習生となるためには、入国前だけではなく入国後の講習も必要です。介護職種においては、日本語科目で240時間以上、介護導入講習で42時間の講義を受けなければなりません。ただし、入国前講習においてこの1/2の講義を終了している場合、残りの1/2の講義だけで技能実習生となることが可能です。
受け入れ企業側の条件
技能実習生を育てる施設は、どこでも良いというわけではありません。受け入れ企業側にもいくつかの条件があるので、以下で解説していきます。
受け入れ人員の制限
受け入れ事業所によって、受け入れ可能な技能実習生の人数が決まっています。原則として、技能実習生5名につき、技能実習指導員が1名以上選出されます。そのうちの1人は介護福祉士などです。
具体的な人数に関しては、常勤職員の総数によって決定され、常勤職員の上限が技能実習生の採用枠となります。例としては、常勤の介護職員が41〜50名程度の職場であれば、受け入れられる技能実習生の数は5名。これは、団体管理型の採用形式の元で、一般の実習を行った場合のケースです。
また、管理団体の職員には5年以上の実務経験を持つ介護福祉士などを設置しなければなりません。
受け入れ施設の対象範囲
技能実習生を受け入れられる施設についても、条件があります。基本的には、設立から3年以上が経過している施設が原則であり、介護福祉国家試験で実務経験の対象施設となっている必要があります。施設であることが大原則であり、訪問サービスなどは該当しません。
介護職で技能実習生を受け入れるメリット・デメリット
メリット
メリットについては、大きく2つのポイントがあります。
- 転職の心配がない
- 高いレベルの人員を確保できる
技能実習生は原則として5年間の在留が条件であり、その間は仕事や職場を変えることができません。つまり、一度受け入れれば、5年間は人材の確保ができるというのが大きなメリットです。また、技能実習生になるには母国での介護職の実務経験が必要なので、レベルの高い人材をいきなり得られるという利点もあります。
デメリット
- 期間が限定されている
- 日本語能力による支障が出る可能性がある
- 配属までの期間が長い場合がある
- コストがかかる
技能実習生が在留するのは原則5年間なので、それ以降はまた人手不足になる可能性があります。また、日本語のレベルによっては日常の介護業務がうまく進まないこともあるので注意が必要です。介護業務は書類手続きが複雑で、配属までに1年以上かかることもあります。日本人職員には不要な日本語教育などの費用もかかるので、コストが高くなるのもデメリットです。